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神経科・精神科・心療内科・心の健康相談 江畑クリニック
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精神疾患のメカニズム

 以下の文章は当クリニックの院長が、日本評論社刊「精神障害者地域リハビリテーション」に「精神疾患のメカニズムを理解する」と題して発表したものです。

精神疾患における疾病と障害の関係
治療モデルとリハビリテーション・モデル
リハビリテーションと福祉
精神疾患の分類
ストレスと精神疾患
統合失調症の急性期エピソードの経過
再発の防止


精神疾患における疾病と障害との関係

  砂原18)は脳卒中をモデルとして、疾病と障害を「火事と焼跡」にたとえています。つまり出血という疾病は、まさに火が燃え盛っている状態でり、出血を止めて救命するという治療が必要です。しかし出血が止まって一命を取り止めても、失語や麻痺といった焼跡に相当する障害が残ることがあります。彼は、この失われた機能を改善したり、他の機能で補うことがリハビリテーションであるとしています。

 蜂矢9)は、この脳卒中をモデルとした考え方を統合失調症に当てはめ、急性期の幻覚妄想状態や興奮状態を疾病とし、それらが消褪もしくは改善した後に起こる意欲減退や感情鈍麻などの残遺状態を障害としました。しかし彼自身が指摘しているように、統合失調症の場合には、この区分にはいくつかの問題があります。第1に、頻回に再発する例や慢性に進行する例に対しては、疾病が治った後の障害という考え方が当てはまらないことです。第2に、もっと本質的なことですが、統合失調症の長い経過の後で意欲減退や感情鈍麻などの重篤な残遺状態であっても、急性期に見られる幻覚や妄想が持続している場合が少なくないことです。そこで彼は、統合失調症では疾病と障害が共存しているとしました。この考え方は、医療の側からは統合失調症に対する医療の敗北主義であり、医療の放棄につながるとする批判がなされました。その背景には、当時、「障害」の概念は「廃疾」の概念に近いものであったことも影響していると考えられています。蜂矢の統合失調症における「医療と障害」の共存という考え方は、統合失調症を単に医療の対象とするのではなく、リハビリテーションと福祉の対象としても見直す理論的根拠となりました。

治療モデルとリハビリテーション・モデル

  臨床実践的立場から見ると、治療モデルとリハビリテーション・モデルはその原理が異なっています。ライトナーら11)によれば、治療の原理は疾病状態を軽減することであるのに対して、リハビリテーションの原理は健康の増進であるとしています。またアンソニー2)は、治療の焦点は個体の症状や疾病を軽減させることであるのに対して、リハビリテーションの焦点は個体の強さや資質を発展させることであるしています。この2つのモデルを疾病の経過における対応手技という見方から、ライトらは、治療はリハビリテーションの第1相であるとしています。つまり砂原18)の「火事と焼跡」の例えで言えば、まず火事を消してから焼跡の整備をすることになります。この2分法は、脳卒中、頭部外傷、その他の身体疾患の場合にはあてはまると考えられます。しかし統合失調症の場合のように疾病と障害が分かち難くある場合には、治療モデルとリハビリテーション・モデルは重複しています。すなわち統合失調症では、その急性期には治療が中心で、その後漸次リハビリテーションへと移行していきますが、完全に移行して治療が不要になることはありません。

 また統合失調症では、微小再燃や微小再発を含めて再発と考えるならば、再発はきわめて日常的に起こっていることなので、治療モデルとリハビリテーション・モデルがどちらか一方に移行してしまう場合はむしろ例外です。その例外として、急性幻覚妄想状態、精神運動興奮状態、緊張病状態などでは、治療モデルが最優先することになります。つまり統合失調症にとって、微小再燃はきわめて日常的なことなので、援助者はその病状の微細な変化を観察しながら、治療モデルとリハビリテーション・モデルを使い分けていくことが求められています。具体的な例を挙げるならば、共同作業所に通って来ている人がある日、ごろりと長椅子に横たわっている時に、皆と一緒に作業またはレクリエーションなどをするように勇気づけた方が良いのか、あるいは、そのまま横になって休息するように奨めた方が良いのか判断に迷うことがあると思います。このことは、治療モデルを優先するかリハビリテーション・モデルを優先するかという問題です。この場合には、この人にとってその日に「長椅子に横たわる」という行為が、病状の微小再燃の現れであるか、もしくは本人にとっては過剰なストレスからの休養を求めているのであれば、治療モデルに基づいて、そのまま横になって休息することを奨めるのが良いでしょう。しかし、「長椅子に横たわる」という行為が統合失調症の急性状態が回復した後に続いて起こっていて、残遺症状としての意欲減退の現れであるならば、むしろそれ以上の意欲減退を防止するために、皆と一緒に作業またはレクリエーションなどのプログラムに参加するように勇気付けるのが良いでしょう。

リハビリテーションと福祉

 リハビリテーションと福祉とは異なった概念です。精神障害者におけるリハビリテーションとは、精神疾患に罹患したことの結果として生じた日常生活および社会生活における能力障害から回復ないしその軽減を図り、さらに社会的不利を克服し、精神障害者を社会に統合ないし再統合することです。それには、作業療法、レクリエーション療法、生活技能訓練(SST)などの認知行動療法、集団精神療法、芸術療法などがあります。また能力障害は、家族環境および社会環境からの影響を受けますので、リハビリテーションには家族もしくは社会との調整も含まれます。それには家族心理教育、社会環境を調整する社会的リハビリテーション、職業リハビリテーションなどがあります。

 一方、福祉は「生活問題を有する個人、家族、地球社会などが主体的に課題を解決して社会参加ができるように振舞う行為のことである」とされています16)。ここでは福祉の対象は、疾患をもっているにしろいないにしろ生活問題を有することになっています。そこでは、個人の疾患に罹患したことの結果として生じた能力障害は生活問題の中に包括されてしまい、能力障害からの回復ないし軽減を図るリハビリテーションの概念は認識されていません。したがって、精神障害者を地域で支える立場にある人々は、精神障害者に対するリハビリテーションと福祉とを区別して考える必要があります。生活問題への解決の努力は福祉的援助であり、それだけではリハビリテーションとは言えません。しかし精神障害者の場合には、さらに複雑です。福祉的援助によって生活環境が向上することによって、能力障害も改善することがありまるからです。また一方、リハビリテーションによって能力障害が軽減するならば、社会的不利が軽減し社会参加がより容易になる場合もあります。精神障害者の場合には、リハビリテーションと福祉的援助が相互作用をします。しかし両者を区別して考えなければ、秋元1)が指摘するように、リハビリテーションが福祉の中に埋没してしまう恐れがあります。すなわち、精神障害者の地域リハビリテーションを実践する人々は、彼らが単に生活問題を抱えた人々として見るだけではなく、その背景に精神疾患とそれに由来する能力障害を抱えていることを忘れてはなりません。

精神疾患の分類

 次ぎに精神疾患としてどのような疾患があるかについて述べてみます。国際疾病分類第10版(ICD-10)によれば、精神疾患は次の10項目に分類されます21)。

1)症状性を含む器質性精神障害(F0)

2)精神作用物質による精神および行動の障害(F1)

3)統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害(F2)

4)気分(感情)障害(F3)

5)神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害(F4)

6)生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群(F5)

7)成人の人格および行動の障害(F6)

8)精神遅滞(F)

9)心理的発達の障害(F8)

10)小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害(F90-F98)

 注:括弧内はICD-10による分類番号を示しています。 

 以上の10の精神疾患について、それぞれの特徴をICD-10に基づいて述べます21)。

1)症状性を含む器質性精神障害

 大脳に機能障害を起こす原因があることが明らかな一群の精神障害が含まれます。肝臓、肺臓、心臓、甲状腺、副腎などの脳以外の身体器官の疾患の結果として二次的に大脳の機能障害を起こす一群の精神障害も含まれます。主な症状として、記憶や知能の障害として痴呆、意識の障害としてせん妄あるいは知覚の障害として幻覚などが現れます。主な疾患として、アルツハイマー病、脳血管痴呆、せん妄、脳外傷、脳炎後症候群などがあります。

2)精神作用物質による精神および行動の障害

 アルコール、阿片、大麻、鎮静剤あるいは睡眠剤、コカイン、カフェイン、幻覚剤、タバコ、揮発性溶剤(シンナーなど)の使用によって起こる精神および行動の障害です。主な症状として、せん妄、知覚変容、昏睡、けいれんなどを伴う急性中毒症状、薬物依存、精神病性障害などが起ります。

3)統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害

 統合失調症は、思考と知覚の根本的で独特な歪曲、および不適切なあるいは鈍麻した感情によって特徴づけられます。きわめて個人的な思考、感覚および行為が他者に知られたり共有されたりしているように感じることがしばしばあります。自然的なあるいは超自然的な力が、しばしば奇妙な方法で患者の思考や行為に影響を及ぼすという説明的な妄想が発展することがあります。患者が自分を中心にしてすべてのことが起こると考えていることもあります。幻覚、とりわけ幻聴が普通に見られ、患者の行動や思考に批判を加えることがあります。知覚障害もしばしば見られ、色彩や音が過度に生々しく感じられたりします。発病初期には困惑も多く見られ、そのために日常的な状況が患者にだけ向けられた、たいていは悪意のこもった特別な意味をもっているという確信に至ることがしばしばあります。思考は漠然として不可解であいまいなものとなり、言葉で表現されても理解できないことがあります。思考の流れが途切れたり、それてしまうことがあります。さらに思考が何らかの外的な作用により奪取されると感じられることもあります。情動の表現が浅薄となり、気まぐれさを示すことがあります。感情の両価性や意欲の減退のために動作の緩慢さ、あるい拒絶や昏迷が現れることがあります。発病は急性のこともありますが、潜行性で奇妙な考えや振る舞いやが徐々に進行したりします。その経過はきわめて多様であり、必ずしも慢性化や荒廃が避けられないわけではありません。

4)気分(感情)障害

 この障害における基本障害は、気分あるいは感情の変化であり、普通、抑うつへ変化したり、あるいは高揚へ変化したりします。この気分の変化は、通常、全般的な活動性の変化を伴います。この障害のほとんどは再発する傾向にあり、個々のエピソードの発症にはストレスとなる出来事や状況が関連していることが多く見られます。

5)神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害

 内的葛藤や心理的ストレスが主な病因となっていると考えられる障害です。この中には、恐怖性不安障害、不安障害、強迫性障害、重度ストレス反応および適応障害、解離性(転換性)障害、身体表現性障害などがある。

 恐怖性不安障害では通常危険でない、患者の外部のある明確な状況あるいは対象によって不安が誘致されます。たとえば、広場恐怖、社会恐怖、高所恐怖、動物恐怖、閉所恐怖などである。

 不安障害では、何らかの特別の周囲の状況に限定されないで発現する不安が主な症状です。この中で、パニック障害は、いかなる特別な状況あるいは環境的背景にも限定されず、したがって予知できない、反復性の重篤な不安発作です。また全般性不安障害は、いかなる特殊な周囲の状況にも限定されない全般的かつ持続的な不安です。

 強迫性障害(強迫神経症)では、反復する強迫思考あるいは強迫行為が現れます。強迫思考は常同的な形で、繰り返し患者の心に浮かぶ観念、表象あるいは衝動です。患者はしばしばその思考に抵抗を試みるが成功しません。強迫思考は、本人の意志に反した、そしてしばしば嫌なものであるにもかかわらず、自分自身の思考として認識されます。強迫行為あるいは強迫儀式は、何度も繰り返される常同行為です。それらは、本来、愉快なものではなく、また本質的に有用な課題の達成に終わることもありません。通常、患者はこの強迫行為を無意味で効果がないと認識し、その行為をすることに繰り返し抵抗しようとします。

 重度ストレス反応および適応障害は、ストレスの非常に多い生活上の出来事、あるいは持続的な不快な境遇をもたらす著しい生活変化が主な原因となって発症します。この中で、急性ストレス反応は、例外的に強い身体的および/または精神的ストレスに反応して発現し、通常数時間か数日以内でおさまる著しく重篤な一過性の障害です。症状として、意識野の狭窄と注意の狭小化、刺激を理解することができないこと、引きこもり、激越ないし過活動などが現れます。外傷後ストレス障害では、ほとんど誰にでも大きな苦悩を引き起こすような自然災害または人工災害、破局的な性質を持ったストレスの大きな出来事や状況に出会った後、数週間から数カ月の潜伏期間を経て発症します。典型的な症状は、ある種の「無感覚」と情動鈍化、他人からの離脱、周囲への無関心さ、意欲の低下が起こります。また外傷を想起させる活動や状況の回避をしますが、反復して生ずる外傷時の回想(フラッシュバック)が起こり、さらに夢の中で反復して外傷を再体験するエピソードが含まれます。

 適応障害は、重大な生活の変化に対して、あるいはストレスの多い生活上の出来事の結果に対して順応が生ずる時期に発生し、通常社会的な機能と行為を妨げます。症状は多彩であり、患者は現状の中で対処して計画し継続することができないと感じ、抑うつ気分、不安、心配などが生じます。解離性(転換性)障害が共有する共通の主題は、過去の記憶、自己の同一性と直接的感覚の意識、そして身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的にあるいは完全に失われます。その中には、解離性健忘、解離性遁走、解離性昏迷、解離性運動障害、解離性知覚麻痺、解離性てんかん、などがあります。身体表現性障害では、症状にはいかなる身体的基盤もないにもかかわらず、医学的検査を執拗に要求するとともに、繰り返し身体的症状を訴えます。

6)生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群

 この障害として、神経性無食欲症や神経性大食症を含む摂食障害、不眠症や過眠症あるいは夢遊病や夜驚症などを含む非器質性睡眠障害、性機能不全、産褥に関連した精神および行動の障害、などが含まれます。

)成人の人格および行動の障害

この障害は持続する傾向をもち、個人の特徴的な生活様式と自分と他人との関係の仕方を表現するさまざなな状態と行動パターンが含まれます。この障害の中には、人格障害として、妄想性人格障害、統合失調性人格障害、非社会性人格障害、情緒不安定性人格障害、演技性人格障害、強迫性人格障害、不安性(回避性)人格障害、依存性人格障害などがあります。また習慣および衝動の障害として、病的賭博、病的放火(放火癖)、病的窃盗(窃盗癖)、抜毛症(癖)などがあります。性転換症などの性同一性障害、あるいはフェテイシズム、露出症、窃視症、小児性愛、サドマゾヒズムなどの性嗜好障害などがあります。

8)精神遅滞

 精神遅滞は、精神の発達停止あるいは発達不全の状態であり、発達期に明らかになる全体的な知能水準に寄与する能力、たとえば認知、言語、運動および社会的能力の障害によって特徴づけられます。精神遅滞者には、他のあらゆる精神障害が生じ得ます。他の精神障害の有病率は一般人口に比べて少なくと3ー4倍多く見られます。精神遅滞者は搾取されたり、身体的・性的虐待を受ける危険が大きく、適応行動は常に損なわれていますが、援助が得られる庇護的な社会環境では、軽度の精神遅滞者においては適応行動の障害がまったく認められないこともあります。

9)心理的発達の障害

 この障害には次の3つの特徴があります。(1)発症は常に乳幼児期あるいは小児期であること、(2)中枢神経系の生物学的成熟に深く関係した機能発達の障害あるいは遅滞であること、(3)精神障害の多くを特徴づけている寛解や再発がみられない安定した経過であること、です。障害される機能は、言語、視空間技能および/または協調運動が含まれます。成長するにつれて、これらの障害は次第に軽快するのが特徴です。しかし、成人にいたっても軽度の障害は残存することが多いのです。これらの障害は、男児では女児に比べて数倍多く見られます。この障害の中には、小児自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群、特異的会話構音障害、表出性言語障害、受容性言語障害、特異的読字障害、特異的綴字障害、特異的算数能力障害、などがあります。

10)小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害

 この障害の中には、多動性障害、行為障害、小児期の分離不安障害、選択制緘黙、チック障害、遺尿症、遺糞症、吃音、などが見られます。

ストレスと精神疾患

ストレスと精神疾患の関係

 多くの人々が精神疾患はストレスによって起こるものと感じています。しかし精神疾患はストレスだけによって起こるものではありません。精神疾患の発病の原因として3つの要因があります。生物学的要因、心理的要因および家族・社会環境的要因の3つです。先に述べたさまざまな精神疾患はすべて、これら3つの要因が重なって起こっています。それぞれの疾患によって、3つの要因の比重が異なっています。生物学的要因が重い精神疾患もあれば、心理的要因の重い精神疾患もあり、また家族・社会的要因の重い精神疾患もあります。さらに同じ精神疾患でも、個体によって3つの要因の比重が若干異なる場合もあります。生物学的要因とは、何らかの原因、たとえば、脳への外傷、脳血管障害、脳炎などの感染症、脳神経細胞の変性などによって起こる脳の病的変化です。心理的要因としては、個体が生長し発育しながらライフサイクルを経て老化していく中で、それぞれの発達課題に伴うさまざまな心理的ストレスにさらされます。それらの心理的ストレスが精神疾患の心理的要因となります。家族・社会的要因としては、個体と家族あるいは社会環境との間に緊張状態が起これば、それらも個体にとってストレスとなります。それらの家族・社会的ストレスは、精神疾患の家族・社会的要因となります。

 ここに挙げた3つの要因は、精神疾患の発病の要因となるばかりではなく、精神疾患の経過にも影響します。すなわち、精神疾患の経過は、生物学的要因のみによって決まるのではなく、心理的要因あるいは家族・社会的要因によっても異なります。つまり同じ精神疾患を患っていても、その個体の置かれた家族・社会環境によって経過が異なってきます。また、個体が自らの精神疾患にどのように取り組むか、あるいは希望を失わずに取り組んでいるかなどの心理的要因によっても経過が異なります。

 ここで心理的ストレスと家族・社会的ストレスを併せて心理・社会的ストレスとし、それと生物学的要因によって起こる脳の病的変化との関係を模式化すると図1のようになります。この模式図で、横軸は脳の病的変化を表し、黒部分の横軸が長いほど脳の病的変化の度合いが大きいことを示しています。縦軸は心理的・社会的ストレスの度合いを表し、白部分の横軸が長いほど心理的・社会的ストレスの度合いが大きいことを表しています。たとえば、痴呆などを起こす器質性精神障害では、脳の病的変化が主な原因であり、心理的・社会的ストレスの影響は少ないことを示しています。一方、神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害では、その原因として脳の病的変化だけではなく、心理的・社会的ストレスの影響も大きいことを表しています。統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害と気分(情動)障害は、それら両疾患の中間に位置しています。

統合失調症の急性期エピソードの経過


統合失調症の急性期エピソードの経過

 統合失調症の急性期エピソードはどのように経過するかについて述べます。中井14)は、急性期エピソードから回復する過程を臨界期から寛解期前期へ、さらに寛解期後期へと移行すると述べています。この考えに従って、急性期エピソードの経過を図に示しました。この図に従って、それぞれの時期の症状と特徴を示します。

 前駆期には、不眠、不安、過敏、焦燥感、疲労感、食欲不振、集中困難など不安症状とともに自律神経症状や注意力の障害が起こります。思考もせばまったり、円滑さが見られなくなることもあります。気分にも変化が起こり、憂うつ感、無関心、希望の喪失などがおこり、閉じこもり、身の回りが不潔になってくることがあります。対人関係にも変化が起こり、不信感、劣等感がつのったり、逆に、高揚感が強くなり、濫費したり、服装が派手になることがあります。この時期に早期介入できるならば、統合失調症のその後の経過が良好であることが知られています。つまり早期発見と早期治療は、身体疾患の場合に言われているように精神疾患の場合にも重要です。この時期の危機介入としては、薬物療法のみならず、ストレス・マネジメント、さらには家族調整および職場や学校などとの環境調整が重要です。

 統合失調症の急性期には、自我障害が起こり、自分が誰であるか分からなくなったり、自分がやっていることを誰かにやらされていると考えたりします。思考障害も起こり、話が途切れたり、話していることが支離滅裂になることがあります。幻聴や幻視などの幻覚が現れることが多く見られます。また妄想が現れることが多く、被害妄想や関係妄想などが特に多く見られます。この時期には、精神運動興奮もしばしば伴い、家庭での介護が困難となり、社会的な問題を起こすことがしばしばあります。この時期には、リハビリテーションではなく治療が中心となります。

 臨界期は、統合失調性になっていた生体ホメオスターシスから正常な生体ホメオスターシスへと移行する時期です。この時期には、下痢と便秘の交代、めまい、原因不明の発熱、腹痛などの自律神経発作様症状が見られます。てんかん様発作が起こったり、一過性の脳波異常が現れることもあります。虫垂炎、火傷、外傷などの身体疾患が好発する時期でもあります。また、薬物の副作用が一過性に増強することがあります。

 寛解期前期は、患者本人は「繭に包まれた」ように感じる時期です。それまでの焦燥感が取れて、余裕の自覚が出てきます。一方、疲弊/消耗感や注意集中困難が強くなります。

睡眠/覚醒リズムが回復せず日中も寝ています。言葉は少なくなります。この時期のリハビリテーションとしては、睡眠/覚醒リズムを少しずつ回復させるように働きかけます。疲れ易い時期なので、活動的なリハビリテーションは避けます。リハビリテーションとしては、自己表現によって人格の再統合を図るために絵画療法や音楽療法などは適切です。

 寛解期後期には、「繭に包まれた感じ」は消失し、睡眠/覚醒リズムが回復し、季節感も回復します。余裕の自覚がさらに深まります。会話も戻ってきます。この時期からは、積極的なリハビリテーションが必要です。この時期に積極的なリハビリテーションを行わないと、慢性化し荒廃状態に近づきます。まず睡眠/覚醒リズムを規則正しく保ち、日常生活の乱れを回復させて、身のまわりのことを自分で行えるように指導し訓練します。さらに社会生活の訓練の一つとして、デイケアや共同作業所などの日中の活動の場を確保します。

再発の防止

 精神疾患の原因となり、かつまたその経過に影響を与えている3つの要因のうち、生物学的要因によってもたらされた脳の病的変化そのものを回復させることあるいは健常化することができないために、精神疾患では常に再発の危険を考慮に入れなければなりません。

1)再発のメカニズム

 統合失調症の再発のメカニズムのモデルとして、個体の脆弱性とストレスと防御因子の3つの要因の相互作用によって再発が起こるとされています。防御因子としては、ストレスへの対処能力、薬物療法によるストレス緩和作用などでがあります。個体の脆弱性が大きくても、ストレスを少なくするかあるいは個体の防御因子を強めるようにすれば再発は防止できます。

2)再発要因

 統合失調症の再発要因として、次のようなことが指摘されています。

 (1)過去の病歴と治療歴

    ・薬物療法が維持されなかった場合)5)6)

    ・急性エピソードの時の入院期間が短かすぎる場合(30日以内)3)

    ・アルコールその他の薬物に対する依存が併発している場合5)8)19)

    ・過去の再発回数が多い場合4)1)

    ・意欲低下あるいは感情鈍麻などの陰性症状が続いている場合)

    ・過去の精神病エピソードの持続期間の総計が長い場合1)

    ・病前適応が不良であった場合)

 (2)ストレスに関する要因

    ・ストレスが強い環境にある場合5)

    ・大きな人生上の出来事にであった場合10)12)

    ・家族環境が拒否的・批判的・攻撃的であったりあるいは患者の言動に巻き込

     まれるなど高い感情表出(EE)を現している場合13)20)22)

 (3)社会的支持

    ・社会的支持基盤が十分にない場合5)

    ・社会的に孤立し交流がない場合

    ・仕事ないし何らの社会的役割ももっていない場合)4)

 (4)個体の要因

    ・ストレス対処技能をもっていない場合24)

    ・病気と将来について希望をもっていない場合24)

3)再発予防方法

統合失調症の再発を予防するためには、次のことが必要です。

(1)薬物療法を維持すること

 統合失調症の再発の最も大きい要因は薬物療法の中断です。したがって、薬物療法を継続することが再発防止の基本です。病識の乏しい患者に薬物療法を維持するように援助することは容易ではありません。しかし病識が乏しくても、薬物がないときの周囲に対する不安感や恐怖感あるいは体調の変化などから薬物の必要を認めている患者は少なくありません。

薬物療法を中断して再発を繰り返す患者には、持効性抗精神病薬を2〜4週毎に筋肉内に注射する方法もあります。

(2)患者本人に対して病気の理解を深めるように援助し、さらにストレス対処技法を習得させること

 統合失調症の患者に病名の告知を行うべきかどうか、あるいは告知をするとした場合にいつの時期に行うべきかについては、未だコンセンサスが得られていません。しかし、筆者としては、急性エピソードから回復して病状が安定した時に病名を告知し、それと共に病気の症状、予後、治療法などを十分に説明し、本人が希望を失わずに病気と自らの将来に前向きに取り組んでいけるようにすることが必要だと考えています。この場合に重要なことは、病名告知のみを行って病気についての説明を怠ると大変悲劇的な結果になります。

 また、再発の契機となるストレスは、個々の患者によって異なります。一人の患者にとっては、一般に再発の契機となるストレスは同じであることが多いので、それらのストレスを早めに感知し、それへの対処方法を普段から準備しておくことも必要です。

さらに統合失調症者は、一般に生活上の問題処理能力が乏しいので、生活技能訓練(SST)認知行動療法によって、生活技能を向上させておくことも再発予防になります。

(3)家族が病気についての理解を深め、その対処技法を習得すること

家族が病気を単なる怠け癖だと考えたり、甘えているだけだとしていることはしばしば見られます。一方では、家族は自分達のすべてを投げうって、患者のために尽くしている場合もしばしばみられます。その結果として、家族が患者に対して、攻撃的になったり、批判的になったり、拒絶的になったり、あるいは患者の言動に巻き込まれたりしていることがあります。このような家族に対して、病気の原因、症状、治療法、予後などを十分に説明し、さらに患者への対処方法を習得させるようにします。これは心理家族教育と呼ばれている方法であり、再発防止に有効な方法です。しかし肝心なことは、患者からくる心理的、社会的、経済的負担を家族だけで背負わないで、普段から家族会、医療機関、福祉機関などに十分に相談することが大切です。家族の負担を軽減することによって、患者に接する時に余裕ができて対処能力も向上します。

(4)職場や学校などの環境調整を行うこと

 定期的に通院することが職場や学校の都合で容易でない場合があります。そのような場合に、通院治療を確保するように調整することが必要になります。

 また職場や学校で差別や偏見にさらされている場合も少なくありません。そのような場合には、精神疾患についての誤解を解き、理解を深めるようにすることが必要です。

 さらに、職場や学校で強いストレスにさらされている場合には、休養をとるとか、配置転換や転校を考慮するとかの環境調整が必要になります。

(5)再発の前駆症状にできるだけ早く気付くこと

 前駆症状にできるだけ早く気付き、それに対処することで再発を防止することができます。統合失調症の前駆症状として、どのような症状があるかについては、「統合失調症の急性期エピソードの経過」のところで前駆期の症状として記しました。前駆症状は、個々の患者によってだいたい一定しています。 したがって、それぞれの患者にとっての前駆症状が現れると再発の危険は高いと言えます。それらの前駆症状を患者自身のみならず家族や周囲の人々も認識しているとそれへの対応が早くなります。

 前駆症状に気付いた時には、まず主治医に連絡します。さらに再発の契機になっているストレスがあれば、休養などによってそのストレス状況を回避したり、あるいはストレスへの対処方法を実行します。

(6)再発が起こったときには、早急に危機介入を行うこと

 再発が起こってしまった場合には、まず早急に主治医に連絡し治療を要請します。主治医に連絡の付かない時には、精神科救急医療機関を利用します。

 自傷・他害の言動があり緊急に対応が必要な場合には、110番通報によって警察官に保護を依頼することも考えなければなりません。

文献

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