Appelbaum1)によれば、インフォームドコンセントの法理念から見ると説明の技法には二つある。イベントモデルとプロセスモデルである。
イベントモデルでは、患者の意思決定をある時点に起こるイベントとして捉える。このイベントモデルでは、インフォームドコンセントの法に求められる説明を患者に告知し、その同意を得るイベントと考える。そのこと自身は、インフォームドコンセントの法に合致している。しかしこのモデルでは、患者がその説明をどのように理解して自己の生活信条や生活方針に照合して判断を下したのかは重要なことではない。1回の説明でも、患者の同意が得られればそれで十分という考え方である。極言すれば、同意書に署名を貰えば事足れりとする立場である。このモデルでは、患者の役割は次のプロセスモデルに比べて受動的である。
それに対して、プロセスモデルでは、患者の意思決定を患者と治療者との絶え間のないかかわりの中の一要素と捉える。したがって、患者との情報交換は治療者ー患者関係を通じて行われなければならないと考える。このモデルでは、患者の役割はより積極的である。患者は、治療者に質問を行い、治療者はそれに答える相互のフィードバックによって、患者は説明を理解し、それを自己の生活信条や生活方針と照合することができる。さらに、そのフィードバックを通して、患者の生活信条や生活方針を治療者側に理解させることができる。その結果得られた種々の選択の中から治療法を決定する。その治療効果や満足度を治療者側にフィードバックすることによって、次の治療段階へと向かう。このモデルでは、治療は患者と治療者の共同作業となる。Appelbaum1)は、このプロセスモデルに基づいて治療段階を見ると次の5つの段階に分類できるとしている。治療者と患者との関係を確立すること、問題を規定すること、治療のゴールを確認すること、治療へのアプローチを選択すること、フォローアップすること、である。
第1段階は、治療者と患者の関係を確立することである。初診の患者にとっては、どのような診断をつけられて、どのような治療を提案されるかよりも、むしろこの治療者に治療を任せても大丈夫であるかどうかという不安が大きいであろう。患者が治療者を信頼しても良いかどうか迷っている時、あるいは治療関係が確立していない時に、患者の将来にとって致命的となり、患者に恐怖や不安を与えるような診療情報を無造作に告知するのは適切ではない。初診の段階では、治療情報は患者に受け入れられ、治療関係を確立し、治療意欲を持ち、希望を失わないように伝えられる必要がある。たとえば、初診時に統合失調症の病名を告知することが適切かどうかは、患者の受け取り方を十分に見極めた上で慎重に判断されなければならない。統合失調症にまつわる誤解や偏見が患者自身にも家族にもある中で、それを告知することは安易にできることではない。医学的事実に反する情報が提供されてはならないことは当然であるが、事実に基づいて、なおかつ患者が希望を失わずに治療に取り組むように説明がなされなければならない。統合失調症の病名告知は、治療関係が確立し、患者が治療に取り組むようになった時に、その病名にまつわる誤解や偏見を取り除きながらなされるのが適切であると考える。
第2段階は問題を規定することである。医者は患者がどんな病気をもっているかに関心をもっているが、患者はそれよりもむしろ日常生活に支障をもたらしているものに関心がある。したがって、何を治療するかは単なる医学的問題ではない。症状があれば、それがすなわち治療対象であるとは限らない。患者にとって何が問題であり、何を治療したいと思っているのかが明らかにされなければならない。疾病認識の乏しい患者の場合にも、何が治療できるのかを伝え、また何を治療すべきであるのかを話し合い、治療対象を明確にすることによって、共にそれに取り組むようにする必要がある。
第3段階は治療のゴールを確認することである。患者が非現実的なゴールを持っていることは稀ではない。また、患者が積極的に治療に協力することなしに、治療者が治してくれるものと思っている場合も少なくない。このことは、治療者がパターナリズム的(保護者的)な治療者患者関係に拠っている場合に現れやすい。希望はいかなる段階でも、いかなる時においても治療の大きな要素である。現実から外れないで、なおかつ希望を失わないで取り組める治療ゴールを患者と共に見出していくことが必要である。
第4段階は治療へのアプローチを選択することである。この段階では、治療ゴール、治療方法、代替方法、治療による利益とそれにともなう危険、治療しなかった場合に起こること、などを患者が理解し、その生活信条や生活方針に照合して選択できるように情報提供する。これは、一方的な告知ではなく、治療者ー患者関係に基づくフィードバックによって達成される。
第5段階はフォローアップである。治療結果が評価されて、それによって治療方法や治療ゴールが変更になる場合がある。この治療結果の評価は単純ではなく、治療によって自覚症状としては不快感が増大したり、症状が転換して別の症状を呈するために治療ゴールを変更する必要に迫られることがしばしばある。不快な自覚症状の発現や症状の転換についても、患者に納得できる説明がなされなければならない。副作用の発現についても十分にモニターされなければならない。そのためにも、副作用の発現を治療者にフィードバックできる治療者患者関係が維持されていなければならない。
以上のように、プロセスモデルに基づくインフォームドコンセントの段階を通して、患者は治療者と共に自らの病気に対峙し、それを統御していく意思を確立し維持していくことになる。それは、治療者から見れば信頼に基づいた治療関係を確立し維持していくことになる。
すなわち、プロセスモデルのインフォームドコンセントは、治療関係の一部であり、それとは別個の法律的行為としてあるわけではない。このように、プロセスモデルはインフォームドコンセントの法理念から出発しているが、臨床実践から見ても、治療者と患者が共に目的とすべき臨床理念を示している。それに反して、イベントモデルは、インフォームドコンセントの法理念には合致しているが、患者の関与を契約者の署名人として以上には見ていないという意味ではやや非人間的な印象を与える。 |