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世に忘れられた人々

 以下の文章は、院長がかつてボランテイアで理事長をしていた精神障害者の地域生活を支援している社会福祉法人「うるおいの里」のニュースレター「うるおい通心」第3号(2004年9月21日発行)に載せたものである。


「世に忘れられた人々」 うるおいの里 前理事長 江畑 敬介

 重い精神疾患を負ったが故に自らが病んでいることさえも認識できなくなり、治療を受け入れることができなくなった患者さんとその家族は、世の日陰に住む人々のごとく密かに呻吟している。これらの人々に対して保健所はほとんど対応できてはいない。精神科病院や診療所も対応できてはいない。かって精神保健福祉法に移送制度が導入されて、それらの人々に光があたるかに見えたこともあったが、移送制度がほとんど空文化してしまい、それらの人々は日陰に取り残されたままになっている。一昨年、新障害者プランが発表されたが、そのプランの中にも、この忘れられた人々に対する対策は皆無である。
 米国においても同様な状況が見られる。1997年、トーリー博士は、米国の精神障害者の危機状況を告発する書を著している。米国では何故にかくも多くの重篤な精神障害者が路上生活をしたり刑務所に入ったりしているのか、或いは彼らは治療を受けさえすれば暴力を振るうことは少ないにもかかわらず、彼らは何故にかくも多くの暴力事件を起こしているのかなどについて、トーリー博士は、精神医学者であるとともに患者家族でもある立場から、米国の精神医療が法律モデルの偏重によって精神障害者が治療を受ける権利から阻害され社会の日陰に追いやられている結果であるとしている。彼は、「法律的愚挙から常識へ」と激しい言葉で精神医療における法律モデル偏重から医療モデルへ転換することを主張し、患者の治療を受ける権利を確立するよう求めている。また患者家族としてトレフェルト氏は、「患者は守られた権利によって死んでいく」と過激な言葉で法律モデルを批判している。
 我が国において、精神障害者に対する人権尊重の思潮は、精神保健福祉法の度重なる改正によって、精神科病院での不祥事を防ぎ、その開放化を促進し、地域ケアの道を開いてきた。しかしその一方では、人権主義は、自らの疾病をその疾病の結果として認識する能力を失った多くの患者さんから治療を受ける権利を奪う結果をもたらしている。危険性要件のみからなる現在の措置入院基準は、危険性がない限り治療を受ける権利を奪い、疾病の増悪を招いていると考えられる場合がある。現状では、精神保健福祉法34条の移送制度も23条の保健所申請も空文化し、人権の美名のもとに、彼らの治療を受ける権利を保証せず、いたずらに放置している。

 2000年に、米国の心理学者であり患者家族でもあるアマダー博士は、これらの世に忘れられた人々に対する対応手段について一書を著した。それは米国において専門家のみならず、患者や家族にも多くの反響を呼んだ。私は、機縁があって、その書を日本に紹介する機会を得た。それは、私は病気ではない」(星和書店、2004年)として刊行されたので、興味のある方には一読を奨めたい。



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